皆さん。はじめまして。今回からこのコラムで連載させていただきます。HS経営コンサルティング株式会社の本田茂と申します。筆者は、平成7年にJA全農青果センターに勤務し、18年間品目担当者として営業一筋で販売してきました。平成24年10月に一念発起して在職中に取得した「中小企業診断士」の資格を活かし、農家さんの経営支援をはじめるために独立しました。以降12年間、毎年約50件以上の農家の決算書を拝見し、いろいろな農家の経営支援をしてきました。このコラムでは、筆者の農業経営支援で感じたうまくいく経営のヒントや長年自分がしてきた経営管理のエッセンスなどをコラムとしてお伝えしていきます。
第1回目は、「レコーディングダイエット」についてお話します。一般的な「ダイエット」とは、食事制限や運動をおこなうことで体重を管理していくことを指しますが、「レコーディングダイエット」とは、そのどちらもしないで、おこなうのは記録のみ。毎日体重を記録していく中で、自然と体重管理ができるという考え方です。筆者の場合は、一般的な農家さんの繁忙期が終わる11月ごろから経営相談の回数が増えるので冬は繁忙期を迎えます。自分自身の仕事が忙しくなるとストレスがたまり、知らず知らずのうちに間食が増えていきます。そして4月になると一段落して健康診断にいくわけですが、そこで体重が5kgほど増加して健康指導も受けてショックを受けるわけです。ところが、毎日アプリ等で体重を記録する「レコーディングダイエット」をおこなうと、12月ごろに、自分の体重がいち早く増え始めることに気が付くため、自然と間食がセーブされるので体重増加が抑制されます。毎日記録することで、体重増加が見える化されて、意識はいち早く敏感になり行動にも影響を受けるというものです。
同じことが、農業経営にも当てはまります。数字をいち早く記録して、見える化することにより家族全員、スタッフ間でいち早く共有することによりチーム全員の行動に変化が起きるのです。数字には、毎年の収穫量や売上金額、肥料代や電気料金、労務費など経費等の数字を前年と比較すること、数字以外でも作物の病気を写真などで記録、共有することで早く行動に移すことにつながります。事例を紹介します。
- ●冬の燃料費を毎月前年と比較したところ、温度管理と生育に対する意識が向上し翌月からの適正な燃料費にすべくスタッフの意識が向上した。
- ●毎日の出荷量を記録して、作業所に表をつくり記録したところ、スタッフの意識が向上して1日あたりの出荷量が増加した。
- ●シーズンが終わるとすぐに、品目の収支を家族で共有することで、次の作において家族間の経費や売上を上げる意識が向上した。
- ●毎年の、機械更新の投資金額を表にして家族で共有したところ、男性陣の投資の抑制につながった。
筆者は、多くの農家さんやスタッフとの家族会議(社内会議)で司会進行をおこないながら、いろいろな数字を皆さんに共有してもらうと、このように家族やスタッフの行動に変化が見えることをたくさん見てきています。また、人に「もっと燃料費を節約しろ」「もっと効率よく作業しろ」と指示するよりも、ミーティングでただ数字を共有するだけでも人は気が付いて素直に行動してくれます。しかも、何年も数字を共有していなかった農家さんから、「こうして数字を見せてもらうとよく分かった。もっと、早く知りたかった」このように言われることも少なくなく、数字を記録して家族やスタッフと共有することは、遅くてもしないよりいいですが、早ければ早いほどより効果を発揮します。
このレコーディングダイエットの考え方は、いろいろな数字を記録することができますが、筆者は、会計のデータをよく活用しています。ですので、筆者は指導する農家さんには、会計入力を夏には1月~6月分の入力を終えてしまうこと、12月には後半分の入力を終わらせて、1月の早い段階で収支を明らかにすることを勧めています。なぜならば、多くの農家さんは、1年間分の資料をため込んで、年明けにようやく重い腰を上げて会計入力を始める。そして、3月ギリギリで確定申告をして、家族で数字を共有する時間のないままに農作業に入ってしまう方が多いからです。1月に終われば3月からの春の繁忙期が始まる前に家族間で数字を共有する時間がとれるからです(高知県の農家さんと繁忙期のタイミングが違うかもしれません)。さらには、毎月ごとに会計データを入力してもらい、月次の会計データ(月次試算表と言います)をいち早く共有している農家さんも実際にいます。
数字はいち早く記録して家族間で共有するほど、数字はよくなっていきます。皆さんも参考にしてほしいです。
以上